2004 - 2010
アーティスティック・ディレクター
ジャン=ポール・ゴルチエは、マルタン・マルジェラの後任として2004年秋冬コレクションからエルメスのレディス・プレタポルテを担ったアーティスティック・ディレクター。エルメスが長年培ってきた馬具、乗馬、レザー、職人技、控えめなラグジュアリーを土台に、ゴルチエ固有の身体性、コルセット、ハーネス、テーラリング、官能性を重ね、伝統を壊すのではなく内側から緊張感を与える役割を果たした。在任初期のコレクションでは、乗馬服やジョッパーズ、エルメス・オレンジのキャンバス、カシミア、スカーフ、バッグの金具といったハウスの記号を、ジャケット、コート、グローブ、ブーツ、ドレスの留め具へと再配置。バッグの金具をチョーカーや衣服のディテールに転用し、バーキンを縦長のシルエットへ変形させるなど、既存の資産をファッションの造形へ翻訳した。ゴルチエの解釈は、エルメスの保守的で端正な印象に、挑発性や演劇性、身体に沿うラインを加えながらも、素材の質と仕立ての精度を優先する点でブランドの品位を維持した。後半には1930年代のテニスや海辺の装い、1960年代のロンドン、エマ・ピールを思わせるシャープなテーラリング、レザーの三つ揃い、トラペーズコートなどへ関心を広げ、エルメスのコードを時代や文化の異なるイメージへ展開。2010年10月発表の2011年春夏コレクションを最後に、自身のプロジェクトへ集中するため退任し、7年間にわたる協働を終えた。
在任期
影響
ゴルチエ期のエルメスは、馬具や乗馬服、レザー、バッグ金具といった伝統的な資産を、コルセット、ハーネス、身体に沿うシルエット、強いテーラリングへ組み替えた。前衛的で挑発的な要素を持ち込みながら、素材の品質と職人技を軸にしたため、エルメスの格式を保ったままブランドのファッション性と官能性を可視化。伝統と実験性を両立させる後続のクリエイティブ体制につながる橋渡しとして位置づけられる。